「近代の誘惑 ー日本画の実践」静岡県立美術館

本日は地元の美術館でもある静岡県立美術館へ。

小学生だか中学生の頃に見学で来て以来。おとなりの静岡県立中央図書館には勉強するためによく来ていたんだけどね。

 

 

午前10:30頃から入館したのだけど、空いていて実に観賞しやすかった。もともとにぎわってる印象はうすいところだけど、週末とかはどんなかんじなんだろうか。


あらかじめこちらの書籍で明治維新から第二次世界大戦後あたりまでの、西洋美術が流入してから意識された「日本画」の変遷を予習していたので、今回のこの展覧会はピンポイントだった。

 

 

展覧会にこちらの書籍から引用されてた年表まであったくらいで、わりと近代日本画の基本書扱いされているのではないかと思った。(実際、他に入門レベルの通史ってなさそう)

 

第1章 幕末から明治へ 1 二つの時代を生きた画家

まずは、冒頭から展示されている雪舟の「梅潜寿老図」を倣ったとされる狩野立信の「(倣雪舟)梅潜寿老図」と、狩野芳崖の「寿老人図」の二点、そして狩野雅信の「花鳥図」から見ごたえがあり、期待感が高まる。

この幕末の狩野派絵師の作品見る限りだと、一般に江戸後期には定型的に絵しか描けなくなり駄目になってしまったとされる狩野派だが、どこがどうつまらないのか自分にはさっぱり。狩野派的に記号的な表現というのもきちんと学ぶ必要があると認識。

菊池容斎の作品が、三点展示されており、どれも画題が歴史からとったもので(「蒙古襲来図」「楠正成笠置山参朝之図」「中大兄皇子中臣鎌足」)、特徴が出ていて分かり易かった。上で挙げた書籍では「近代日本画の嚆矢とみることもあながち的外れな見方ともいえない」と記述されていたけど、展覧会でみるとかなりこの画家は浮き上がっていた。

この菊池容斎門下から、松本楓湖や渡邊省亭、そして松本楓湖の安雅堂画塾から今村紫紅速水御舟らが育っていったというのが正直信じられない。

他に目を引いたのが、田中日華の「山水図押絵貼屏風」、塩川文麟「琵琶湖八勝図」、長谷川玉峰「四条夕涼図」といった水墨で描かれた山水図~風景図で、こういった省略の美ともいうべき簡潔な墨の濃淡を利用した表現が好きなことに気付いた。

これは、多分、自分が幼少期から好きな漫画家冨樫義博の絵にも繋がるからで、逆に言うと冨樫さんはこういった日本画からも影響を受けて今の画風になっているんでは? と考えるきっかけになった。

 

第1章 幕末から明治へ 2 明治後期 "日本画"の成立

渡邊省亭の「十二カ月花鳥図」が実によかった。

特によかったのが「五月 花菖蒲に鯉」「十二月 枯蓮に鴨」「九月 杉にみみつく」。

構図が本当にかっこよい! 縦長の掛け軸をうまく使った、その中に花鳥が複数描かれている。本来ならその複数描かれる花鳥を重ねたくないとおもうであろうところを、平然と前景の植物で後景の動物をぶった切るような描き方をする。

以前、観た酒井抱一の「十二カ月花鳥図」はピンとこなかったので、これに惹かれたのは本当に良かった。この画家はもっと深く知りたい。

 

第2章 大正の展開 1 文展と再興院展 2 京都市立絵画専門学校と国画創作協会 

ここでは横山大観の「群青富士」。美術検定の問題に、複数の富士の絵のなかから仲間外れを選ばせるようなものがあって、そこに、この横山大観の「群青富士」があった記憶。今回、この画のキャプションを見るに、琳派からの影響があるといわれていて、これも「日本画とは何だったのか」によると、

それは、この後すぐにやってくる俵屋宗達への再評価の時運と関わりである。一九一三(大正二)年に、たまたま開催された宗達の初の回顧展をきっかけとして、宗達は一気に注目の画家となった。

とあるように、大正期の個性尊重と宗達再評価の流れをしっていると、横山大観のこの画が描かれた流れがよく分かる。

なので、美術検定の問題としては、琳派の影響下にあると富士というのが分かっているかどうかを問うような内容になっていたんだと思う。

 

第3章 昭和の日本画 1 昭和初期 古典憧憬と洗練 2 戦中・戦後から現代へ

戦後になるともはや日本画をどのように描こうという問いは消えてしまい、日本画とは何だったのかという問いだけが残る状態になり、それはここの画をみて読み解けよと唐突に梯子を外されてしまったような状態に。(ここまできちんと梯子にのって日本画の変遷を感じられたわけではない)

徳岡神泉「雨」の、福田平八郎の「雪庭」、秋野不矩「ガンガー」などはもはや抽象画で、国籍など全く感じさせないような絵画で、これが最後の最後に置かれているところからも、画題から日本画らしさを抽出するのは難しく、支持体やマチエールからのみそれは規定されるというようなメッセージを感じた。

 

企画展以外

「近代の誘惑」展を見終えた後は、もう一つの企画展である「光 The Light」へ。

マン・レイの写真なんかが飾られていた。

さらっとみて、「ロダン館」へ。

館内でデッサンをしてる人などがいて、平日の昼間ということもあってか全体的に来館者が少ないのもあいまって良い雰囲気を醸し出していた。

ロダンとか、それ以前以後がきちんとわかる手ごろな書籍ってあまりみつけられなかったのだけど、ここのショップに合った図録がその目的にかなったものらしく、今回は見逃したもの次回は購入しようかなと思った。

他にも、過去に行われていた企画展の図録が売っていたので購入。一冊500円という安さですばらしい。今回の図録もあれば欲しかったけど、無かったな...。残念。

折角、地元にこんなに良い美術館があるのだからもっと利用しようと思った。

 

最後は、鳥坂営業所前の一元で味噌ラーメン。