特別展『やまと絵-受け継がれる王朝の美-』東京国立博物館、特別展『北宋書画精華』根津美術館

2023/12/01

東京国立博物館の『やまと絵』展と、根津美術館の『北宋書画精華』展を見るために東京へ。できれば、サントリー美術館の『幕末明治の絵師たち』展も見たかったんだけど、体力的にしんどかったのであきらめる。ただ、根津美術館が事前予約必須で、この予約時間をサントリー美術館に行く前提で組んでしまったので、その前に行った東博での鑑賞時間を縛ってしまった。もっと余裕を持った時間組にすべきだったな。

事前に以下の記事を読んで、『北宋書画精華』展には興味を持った。

www.tjapan.jp

日本は中国をどのように見、中国は日本をどのように見ていたのか。そしてその価値観はどのように変容し、造形芸術へと反映されていったのか。それぞれ中国美術と日本美術をテーマに据えた展覧会だが、中国美術には日本美術を、日本美術には中国美術を補助線としてあてがうと、よりはっきりと焦点があってくる。両者が共有する展示作品も含め、ぜひ「掛け持ち」して観ておきたい展覧会だ。

上記のようなことは、特に『やまと絵』展について予習する中でも強く感じた事だった。

 

 

つまり日本列島で使われていたやまとことばの中にはもともと「絵」にあたる語はなく、日本人は中国の絵画に接することで、鑑賞の対象としての「絵」という概念を学んだというわけだ(銅鐸(どうたく)表面の線刻など絵図そのものは存在した)。

 中国絵画を通して絵画という概念を得た日本人は、まずその忠実なコピーを描いてみたはずだ。実際には見たことのない中国の風景、会ったこともない中国の仙人たち。だが時を経るにつれて描く対象は多様化し、日本の事物・風景もレパートリーの中に加わるようになる。こうして「絵」の中に蓄積されていった、「見たことのある日本」を「やまと絵」として区別し、単に「絵」と認識していたものは「唐絵(からえ) 」と呼ぶようになった。

〔……〕

 そしてこの概念は時代を追って変化し、鎌倉時代後期に中国から新しい絵画様式として水墨画が入ってくると、水墨画を中心とした唐絵を「漢画(かんが) 」と総称し(制作者が中国人か日本人かは問わない)、それ以前の「伝統的」な様式の彩色画が「やまと絵」となり、宮中に所属する絵師たちが中心となって制作を担った。

やまと絵の歴史が書かれている本を読むとたいてい上記のような記述に出会う。で、自分はこういった記述を読んで、ようやく日本美術を通覧できた気がしたのだ。平安時代にやまと絵が興って、中世近世につながるようなイメージはあったものの、それ以前の日本の美術と言ったら仏教美術といったイメージしかなかった。そこに「唐絵」という中国美術の補助線を当てて、やまと絵の起源まで視野に収まると、日本の美術史という一本の線がきれいに見える。

もう一つ『北宋書画精華』展にぜひ行かねばと思った理由は以下のつぶやき。

「10年に1度、1週間」しか見れない「桃鳩図」!!

これが、会期最末期の12月1日〜3日にしかでないということで、日程の調整もこれを基準にした。

 

特別展『やまと絵-受け継がれる王朝の美-』東京国立博物館

事前に以下の書籍で予習済み。

 

 

 

 

特に、高畑勲の著作はグッと絵巻を読むときの見方が深まるので入門におすすめ。

東博は平日金曜日の真昼間に関わらず、なかなかの混みようで、展示期間が終盤というのもあるのかなと思った。すこし、土曜日に来ることも考えていたけど、平日で正解だった。展示のボリュームがかなりのもので、次に予定を入れてしまっていたのを少し後悔した。混んでいて四代絵巻や、三大装飾経のところなどは並ばなければいけなかったという事を差し引いても、ある程度全体をじっくりと鑑賞したのであれば、3時間は必要だったと思う。後半かなり流し見でも2時間近くかかったので、次の予定に間に合わせるために、この企画展が行われている平成館以外の場所での展示は全く見られなかった。

四代絵巻の『源氏物語絵巻 夕霧』『信貴山縁起絵巻 尼公巻』『鳥獣戯画 丁巻』、三大装飾経の『久能時経 随喜功徳品』『平家納経 薬王菩薩本事品』『慈光寺経』といった作品は、展示の前半に固まっていたこともあってかそれぞれじっくりと鑑賞できた。とくに『信貴山縁起絵巻』の「尼公巻」は、上記の高畑勲の本を読んでいても、特に気になっていたので実物をこのタイミングで鑑賞できたのは良かった。思ったよりシーンの切れ目である山の描写が長い。また経典や日記、歌切などの「書」の作品の比重が大きかったり、歌仙絵や和歌にまつわる作品も多く、美術史だけ独立して学んでこういった展示を十全に楽しめるというようなことはなく、歴史と文化全体もある程度深める必要があるなというのを改めて感じた。特に今回の展示の予習をする中で平安時代から室町時代にかけての中世文学に関心が出てきて、いったん美術の勉強を棚上げにしてこちらをもっと勉強しようと思った。

 

特別展『北宋書画精華』根津美術館

こちらは事前に以下の著作で予習。

 

どちらも流し読みで、中国史にまつわる知識もほとんど皆無で、あまり読み慣れていない語彙が多く、集中するのが難しかった。こちらは中国史の勉強から少しづつ始めていこうと思う。

根津美術館に来るのは初めてで、尾形光琳の「燕子花図図屏風」を所蔵しているところじゃないかと、売店で推されているのを見て気が付いた。今年来ようと思って来られなかったんだよなぁ。

完全予約制にもかかわらず長蛇の列で、この展示がいかに貴重なものなのかが分かる気がする。中国語と思わしき言語がいたるところから聞こえてきて、これのためだけに来日した人とかも多いんじゃなかろうかと思われる。展示のボリュームだけを言うと、『やまと絵』展とは比べるべくもないけど、それはしょうがない。こちらも国宝の「五馬図鑑」と徽宗による「桃鳩図」の前は人だかりができていた。...ただいかんせん予習不足もあってか、展示を見ていても引っかかるところが少なかったのが残念。もともとのお目当てだった「桃鳩図」だけはじっくりと鑑賞した。円山応挙とか近世京都の写実画を想起するような感触の絵で、それがこの時代に既に存在していたという事に驚く。円山応挙は蘭画なんかの西洋絵画の影響で写実的な絵を描いたというような認識なんだけど、今回見た中国からの写実の系譜というのはどのようになっていったのかというのも今後は意識しようと思う。

 

最後に、新橋駅前の富士そばで遅めの昼食を食べた。

冷やし肉富士そば大盛半熟卵付き。

また、新橋駅前でスペース取ってホタテ祭りをやっていた。ザーッと屋台見たけど、やはり全体的によいお値段がするのでスルー。