「ハイパーインフレーション」住吉九

 

 

今年の3月に完結して話題になっていた「ハイパーインフレーション」を読み終えた。

偽札を題材にしたコンゲームもの。作者の住吉九さんはこれが初連載なのかな。

上のコマ見たらわかる通り、全体的に動きがぎこちなくてこなれていない感じがある。作者コメントなんか読んでも文章もこなれていない感じで逆にそれがネーム上でも個性になっている。

そして、唐突に脈絡もなく↑みたいなコマが挟まれて、それが独特のリズムを作っている。なので、全体的に粗削りで初期衝動の塊のような作品。

偽札をフィクション内で取り扱ってるものと言ったら、真保裕一の小説「奪取」。この「奪取」がそうだったんだけど、どうしても偽札づくりの過程そのものが面白いせいか、お話の中にそれらの知識を消化できていない感じがあり、うんちくをそのまま読まされているようで、これならそのまま偽造にまつわるノンフィクションを読んだほうが良いとなってしまいがち。この「ハイパーインフレーション」もそこら辺の課題はクリアできていないように思うが、異常にエッジのたった登場人物と、能力で紙幣をほぼ無限に発生させられるという異能力の存在が、そういったうんちく要素を浮き上がらせないで併存させている。何より細かい製造過程はすっとばしても、肝心かなめのコンゲーム要素は十分楽しめるので特に問題なし。

物語中で強烈な印象を残すのが、金のためなら平気で人を裏切るし、金のためなら体を張って銃弾から人を守る、商人のグレシャム

こういう善悪の彼岸にいて魅力的な登場人物がいるだけで、加速度的に話はおもしろくなるなーという良い見本で、話の筋は忘れてもこのキャラは忘れなさそう。

全六巻でボリュームも程よいし、おススメ。