モブサイコ100 (アニメスタイル010)/ モブサイコ100Ⅱ(アニメスタイル015)

モブサイコ100」と「モブサイコ100 Ⅱ」を見終えた。残すは三期。

なんとなく見始めたんだけど、想像以上のクオリティで驚いた。話全体を牽引するのが主人公モブのなんとも低いテンションの演技なのが良い。それがすごいオフビートな感触がある。1シリーズにつき、2~3話超絶作画のアクションシーンがあるのでそれだけでも見もの。あとシンプルに話の筋が面白い。

アニメスタイルでも特集されていたので、とりあえずこの作品を読み解く上でのキーワードを切り抜いてみた。

 

モブサイコ100

p121

今のTVアニメの制作過程では作画監督の上に総作画監督が立ち、演出や監督も画をチェックし、二重三重にも直しが入れられるのが当たり前となっている。だが、『モブサイコ100』は総作画監督を立てていない。

 

p134

亀田 〔……〕今なら、何かの作品で線を青くしたら「これって『おそ松さん』じゃん」と言われそうな気がするじゃないですか。それと同じように「これをやっているの? 『モブサイコ100』じゃん」と言われるぐらいの表現を作りたいという話をしていましたよね。

立川 『モブサイコ100』では油絵風の映像もやっているし、昔ながらのハーモニーとかも使っているんですよ。例えば、最終回でやっていた石膏みたいに描かれた霊幻の口パクのカットは、画用紙に描いた線画をスキャンしてつかっています。

※ハーモニーとは? 通常のセルアニメでは、絵の具で描かれた背景の上にベタ塗りされたキャラクターの動画を重ねてカットを作るが、ハーモニー処理の場合、セルのキャラクターをベタ塗りせず「背景と同じ質感」で「背景を人物込み」で描き、その上に線画をトレスしたセルを重ねる。こうして、絵画のような一枚絵の画面が完成する。本来なら背景から浮くべき人物を馴染ませる――調和させることから「ハーモニー」と呼ばれるようになった。

 

p135

亀田 〔……〕特に僕が気に入っているのはキラカード風のオーラ処理ですね。

小黒 キラカードって、ビックリマンのシールのような効果ですか。

亀田 そうです。ビックリマンキラカードみたいな光の処理って、昔のセルアニメでは結構あったんですが、デジタルになってからT光の種類が極端に少なくなってしまったんです。

 

※T光とは? 透過光のこと。

 

p135

亀田 動くと言えば、『モブサイコ100』は毎話数に背動があるのが凄いですよね。

〔……〕

立川 〔……〕2話のそのシーンは直す前から背動になっていたんですよ。〔……〕モブ君主観の背動にしたかったのは『クレヨンしんちゃん』の『ロボとーちゃん』で、ロボになったひろしの主観で街中をうろうろする背動カットがあて、あんなふうにできないかなと思ったからなんです。

↑これ「全セルの背景動画」というタームが、この前のページにあって、全セルの背動と、通常の背動でどのように変わってくるのかというのも知りたいところ。

 

p137

小黒 鉛筆のタッチと言えば、今回はシリーズを通して線のタッチが太めに出ていますよね。

亀田 そうなんです。鉛筆の線が出るように、動画さんに拾ってもらうようにお願いしたり、止め画だったら原画さんに直接動画にしてくださいと言っていましたね。ただ、最初からそのかたちでスタイルをかっちり決めるつもりだったわけでもないんです。原画では太く描いているのに動画の工程で細くなってしまう事が結構あって、段々と気になり出したんです。ちょうどその時に、小田剛生さんが作監の3話をラッシュで見たら、動画の線が凄く太くなっていたんです。作監上がりの画はそんなに変わらないんですが、3話ではWishという動画仕上げの会社の動画検査さんが、小田さんの修正を凄く太い線で拾っていたんですよ。

↑どこまでが、監督なり作監なりが作品の内容を意図的にコントロールできるのかという点が垣間見えて面白い。

 

全体的に監督の立川さんより、キャラクターデザインの亀田さんの好みだったり嗜好が反映されているようなのが分かる記事だった。

 

モブサイコ100Ⅱ』

p10

立川 〔……〕原作から脚本に起こす際、原作を文字にするだけでなく、セリフの整理やシーンの入れ替えを行っています。アクションシーンに関しては、絵コンテ以降で変わっていくのはわかっていましたから、脚本には本当に必要な要素しか書いていないですね。〔……〕

小黒 セリフとかは絵コンテ段階で悩まなくていいぐらいまで、脚本段階で詰めている?

立川 いや、悩みますね。脚本では、ちょっと多めにはしてあるんです。大体2分オーバーぐらいで上がってくるんで、そこから削る作業を結構時間を掛けてやってますね。

小黒 2分多く上がったほうがいいんですか。足りないよりはいいということですか。

立川 単純に脚本の時点で「このセリフを切ろう」と決心ができない。絵コンテになると映像の流れが見えてくるんで「このセリフがなくても視聴者に通じるな」と思えるようなるんですが、文字だけの段階だと、セリフが判断できなくて。

原作→脚本→絵コンテという流れの中で、作業の詳細が窺える。

 

p19~p20

立川 今の若い子達は、横のつながりが自分たちの世代よりずっと強いんです。SNSでつながっているというのも大きいみたいですね。ハク君がやるとなると自動的にやる人が決まっていくみたいです。グループみたいな感じで、アニメーター同士がつながってるんですよ。知り合いの仕事しかやりませんみたいな人もいるようです。自分が若い頃はそういうSNSの繋がりはありませんでした。勿論、一度一緒に仕事をしたあと、やりやすかったから、同じ人達とやるということはあったと思うんですけど。今は、それがさらに強まって、ある種ひとつの制作チームみたいな感じになり始めてるんですかね。〔……〕ハク君が台湾人で、英語が話せるんで、5話は外国人の若いアニメーターも入ってますね。特に印象に残ってるのは、名前出していいのかわからないですけど、Weiin Zhangという名前の17歳ぐらいの高校生です。

フリーランスコミュ力いらないみたいな幻想を粉々に打ち砕くような良い話。プログラマーなんかも、こういう横のつながりから最新のトレンドや知識の共有を図ってるようなイメージ。

 

p20

立川 〔……〕とにかく、彼らにとって絵コンテは叩き台なんだと思います。絵コンテはふわっとした感じにしか描いていなくて、振れ幅がかなり広いんです。それで作画するスタッフ達が、「もっとこうしたい」と考えて、彼らの色々な意見がバンバン入っていって、最終的に全然違うカットになっていく。〔……〕

小黒 絵コンテにないカットが、作画段階で増えている?

立川 増えているし、元からあっとカットも全然違うし。「これは何?」という感じだったと思いますね。〔……〕

 

立川 〔……〕温泉君がラフ原画を描いて、それをFlashのムービーで上げてきたんですよ。その時点で絵コンテとはまるで違っていました。その時点で絵コンテとはまるで違っていました。いいところも、よくないところもあったので「ここはおかしいと思う」と言うと、「そういう意見が欲しかったです」という返事が戻ってきました。客観的な視点が欲しかったんでしょうね。〔……〕

小黒 言う事聞かないわけじゃないんですね。

立川 そうですね。ただ自分のやりたいことをやりたいという感じではないんです。作品のいいところは尊重し、やらなきゃいけないことは守るというスタンスでやっているようでした。

小黒 80年代の暴走アニメーターとは違う?

立川 そうなんですよ。だから、中村豊さんとかに凄く影響受けているんじゃないですかね。中村さんも自分のアクションパートは変えるんですけど、そのシーンで表現すべきことは絶対にやるんですよ。かつ作品のテイストも守って、観たこともないものを作ろうとしてくれる人なんで、みんなそこに影響されてるんじゃないかなと思うんですよね。

ここらへんの若手アニメーターのクリエイティビティの話には感嘆。シンプルに凄いわ。そしてそこらへんを良い感じに手綱握りながらコントロールする立川監督も凄い。

 

p27

小黒 総作監をしたくないのはどうしてなんですか。

亀田 自分も画を描きたいからですかね。総作監はやっぱり顔を直すのがメインになるので、レイアウトの構図や動きを修正することがどうしてもできなくなってしまうから「ストレスが溜まりそう」って思っちゃうんですよ。

作監の作業量が伝わる話。

 

p30~p31

亀田 〔……〕リアリティというか、現実味があってこそ面白みが出てくるもんだと思うんで。リアリティを重視するというところでは、本編でやってる影ぼかしもディズニーからヒントをもらったりしました。

小黒 ええ!? そうだったの?

〔……〕

亀田 『アラジン』とか観ていて思ったんですけど、なんか陰影に凄いリアリティを感じたんですよね。だから最初は服もぼかし入れてやってたんですけど、なんかモワモワしただけというか。〔……〕

亀田 〔……〕カットによって。やっぱり影がないほうがしっくりくる時もあるんで、決め顔する時は、影ぼかしなしでパッキリした画で見せたいとか、そういうのが最初から自分の中であったんで。結局、影ぼかしは肌影以外は使わないといったルールを作りましたけど。

小黒 影ぼかしを入れると、肉感が表現されますよね。

ここら辺の、人物の影の処理についての話は面白い。『王様ランキング』では影無しでハイライトをつける処理を行って雰囲気を出していたみたいな話が出てたけど、アニメの完成度に貢献する大きなトピックなのかもしれない。