『歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―』岡田美術館、『シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画 横山大観、杉山寧から現代の作家まで』ポーラ美術館

2023/10/13 箱根の美術館巡り。岡田美術館とポーラ美術館で、岡田美術館に来るのは人生で初めてになる。

小田原駅の東口から外に出てすぐにあるバス乗り場の5番線、伊豆箱根バス箱根園雪に乗る。このバスで箱根湯本駅のバス停あたりからぐんぐん山を登っていくことになるのだけど、これが車酔いする身からするとキツイ...。久々にウっとなった。あと一見して外国の方が多く、観光客でにぎわっているというのを肌で実感する。小田原駅東口~岡田美術館前の小涌園(こわきえん)というバス停間で、運賃は940円だった。

 

歌麿北斎 ―時代を作った浮世絵師―』岡田美術館

まず一見してみた感じだと、入り口も小さくてとてもこじんまりとした瀟洒な? 美術館に思える。...が、これは大きな勘違いで実際に美術館自体は全5階の建物1階1階に美術品が敷き詰められるように存在しており、いままで見てきた中でも屈指の収蔵・展示数があったように思う。

そして入館料が高い! 常設展と特別展合わせて観られるといっても2800円は高い気がする...。入館前にスマホやカメラを預けないと入られないというシステムも初めてで、考えてみればこうしておけば監視員を設置しなくていいので安上がりなのかもと思った。

午前11:00~、学芸員さんの30分ほどの講演もきちんと聴けて期待は高まる。遊女は帯を前で締めるという講演内の情報が一番なぜか頭に残ってる。この美術展のキービジュアルにもなっている北斎の「夏の朝」(上の画像の右側の垂れ幕の絵)は、なので普通のおかみさんだろうという事だった。上村松園の展示物なんかも例に挙げて、注視してほしい個所を挙げてくれてありがたかった。

1階が「中国陶磁、玉器」、2階が「屏風の名品、日本陶磁、和ガラス」ときて、もうここ陶磁の物量がすさまじい。名品ぞろいなんだとは思うが、いかんせん事前知識がないのでさらーっと流し見る感じになってしまった。それでも1時間近くはかかったと思う。今年度のはじめあたりから同じこと言ってるけど、とにかくやきものについてはきちんと勉強して、こういう時に楽しめるようになりたいところ。尾形乾山野々村仁清の作品などもあり、こちらは名前が分かったので引っかかったじっくりと鑑賞のようなことはできた。

そして3階がメインの「歌麿北斎」エリアになる。もちろん歌磨と北斎の肉筆画や、上村松園鏑木清方伊東深水の絵もよかったんだけど、ほかに目を引いたのが作者不明の「誰ヶ袖図屏風」でその意匠が印象に残った。これは、衣桁に掛けられた衣装などを配し、その持ち主の面影を偲ぶという趣向の主題らしく、結構描かれたものらしい。これ見て思ったのが高橋由一静物画なんかにも影響を与えているんじゃないかなという事で、そう、日本にも静物画的な絵が存在していたんだという事に驚いたんだ。もう一つとてもよかったのが、宮川長春の「遊楽図巻」。着物の柄が色鮮やかで、画面全体でその色調が飽きがこないように調整されているようで、特有のリズムがあり、ずっと見てられる。

図録もぜひ欲しかったのだけど、この展示会の図録というのは無くて、岡田美術館の所蔵品をまとめたようなものしか無さそうだった。1巻と2巻で、それぞれが2500円。...こちらもちょっとお高いので今回は断念。結構見返したい作品も多かったのだけどね。通販もやって無さそうだし、やきものの知識を仕入れて、また来た時に購入するかな。

その後、美術館を後にして、付属の施設の開化亭へ行く。風流な庭が見える中でぶっかけうどんを食す。これが思ったより分量もあって、かつ出汁が上品ながらも決して薄味ではないという塩梅で非常に美味かった。あんまり期待していなかったのもあってかこれには得した気分。お値段は1300円。

そこから、先ほど降りたバス停前の小涌園バス停から、箱根登山バスの湿生花園前行きに乗り、ポーラ美術館へ。これで30分くらいかかって430円が運賃となる。

『シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画 横山大観、杉山寧から現代の作家まで』ポーラ美術館


ポーラ美術館に来るのは、今年の2/13に「ピカソ 青の時代を超えて」展のために来た時以来となる。ポーラ美術館のイメージとして、前回の「ピカソ」展があったために印象派以降の西洋画の収蔵に力を入れているのかなと思っていたら、近代日本画のボリュームがここまであるというのに驚いた(当然、他の美術館から借りてるものも展示されているとはいえ)。しかし、岡田美術館の後に来ると、全体的なボリューム不足感は否めず、ちょっと物足りなくもあった。

展示の冒頭近くにあったた狩野芳崖の「曉霧山水」が、日本画に西洋の空気遠近法を取り入れようとする試みがわかりやすく、過渡期の作品として印象的深い。

続いて、岸田劉生の作品が麗子像含めて3点ほど展示されていたんだけど、それぞれ全くと言っていいほど画風が違っていたので、写実以外でもこんな引き出しがあったのかと驚いた。文画なのかなぁ。

友人の祖父が画家で、その師匠でもあったという情報を仕入れてから、その名前を追うようになったのが岡田三郎助で、多分日本でもそんなにいないだろうと思うくらい、この画家への関心が高まっている。で改めてみると印象派風のとても良い女性像を描く。ルノアール黒田清輝なんかよりよほど好きだ。

印象派風なれど輪郭線がきちんと引かれているのが分かる。あごの肉が乗っかている感じが凄い上手く描けている。

岡田三郎助の代表作なのかな。この耳が紅潮した感じがはっきりととらえられているのは凄いと思った。フェティシズムというほど生々しくもなく上品なんだけどなんとも言えない味わい。女性の何気ない仕草をとらえたわけでもなく、あえて美化するわけでもなく、うまく既存の言葉で収められないような独特の魅力があるように思う。

そして、戦後の画家ではとにかく杉山寧の作品が異様に充実しており、この謎の推しはなんなんだと。

色彩が一見してこの画家のものだろうなと推測が付くくらい独特で、青と緑が非常に色鮮やか。あとモチーフに鳥(特にガチョウ)をつかうのが異様に好きで、このこだわりもなんか面白みがあった。

これは下半分の余白がいいねー。

この、青が印象的な二作品を順にならべて見せたレイアウトが本当に素晴らしかった。これはこういう見せ方をしてくれた美術館に拍手。単品でみるだけでは味わえない広さを感じられた。美術館進んでいく中で、この二つの青が見えてきたときはなんか感動すらしてしまった。トンネル抜けたら地平線まで見える海だった、みたいな。

 

 

杉山寧が亡くなったのが1993年で、上記の白鳥は1989年の作品だからほとんど晩年のものになるのかな。またガラッと作風が変わってカメラで収めたような一瞬を切り取ったものになる。ここにきてこんなに自分の作風を変えられるというのは凄いね。

分かりやすい初心者向けの杉山寧の生涯を知れるような評伝とかあったら読みたいけど、ぱっとAMAZON見た限りだとかなり専門的な内容に踏み込みそうな本ばかり。東山魁夷とかもそうだけど、戦後を代表する国民的な画家だったという割には、現在に全くその残り香が伝わっておらず、実態が良くつかめないんだよな。

その後、フロアが変わって現代の日本画作家の展示コーナーへ移動する。

やっぱ現代作家のインスタレーションとか抽象画はよくわからないと思う事が多かったけど、それでも引っかかるものがいくつかあった。

まずは、この野口哲哉さんの「Energy Notch」。なんだこれは!? 画家の言葉をよむと、当人は鎧兜に思い入れがあるらしく、この芸術をとおして現実を生きる力になってほしいみたいなことを言っていたりもして、そういう当人の意気込みと作品のファニーさとの乖離含めて面白かった。

この尾形光琳の「紅白梅図屏風」のサンプリング? 作品二つを並べてのはとても洒落ていて、こんな形でインスタレーションといかないレベルで著名な日本画をアレンジするような作品をもっと見たいと思った。そうやって歴史が積みあがるほど古典に関心も向くし偉大さが現代にも伝わるのだから。

図録も欲しかったのだけど、まだ出来上がっていないとのこと。まぁ、ここの図録はAMAZONでも買えるからな。

また、ポーラ美術館から小田原駅まで行くのがめんどくさく、ポーラ美術館から箱根登山バスの湿生花園前行きのバスで仙郷楼前まで移動し、そこから小田原駅方面のバスに乗り換える。ここまでの運賃が1370円。

 

最後に小田原駅の「名代箱根そば」で、たぬきそばを食べる。満足して帰る。